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私は当時、事務系の部署のヒラ社員。
彼は営業部署の部長でした。
たまたまこちらの部署内で事務的なミスがあり、それにクレームをつけてきた彼の電話を私が取ったのがすべての始まりです。
それはそれは怖い低音ボイスでミスを詰められた私は、冗談でなく震え上がる思いをしました。
その後ほどなくして実物の彼と話す機会があり、どんな怖い人かと内心怯えていたのですが…拍子抜け。彼はすごくダンディなイケメンだったのです。
そこから私は、彼に一目置くようになりました。
とは言っても、左手の薬指なんて気にならないほど、とてもとても淡い恋心でした。
仕事を通じて彼と話す機会が増え、顔を合わせれば軽口を叩き合うくらいには仲良くなった私たち。でも、私は会社の中でだけじゃなく、もっともっと彼のことを知りたくなっていました。
20代の私と、40代の彼。
正直に言うと、好意をあけすけに示せば食事のひとつでも誘ってもらえるだろうと思っていました。20代の女性から好かれて、下心が騒がない中年なんていないだろうって。
でも、彼は違ったんです。
どれだけ私が「部長、今日もカッコいいですね」「昨日部長が夢に出てきました」とアピールしても、彼は笑って「ありがとう」だとか「そうなの?」と流すだけ。
それで、私はたまらなくなってしまいました。
「部長のことが好きなんです」
仕事の相談とかこつけて彼の携帯に電話をかけ、そう告げました。
ドキドキして心臓が飛び出そうでした。
彼は5秒ほどためらった様子でしたが「ありがとう、嬉しい」と言ってくれました。彼は私を受け入れてくれました。
そこから約2年間、誰にも言えない恋人期間を過ごしました。
誰もいない会社の休憩室でキスをしたり、仕事と偽って家を出てきた彼と待ち合わせてドライブデートをしたり、私の家に招いて料理を振舞ったり。
本当の恋人なら、本当の夫婦になれたら…。私の手料理を口に運ぶ彼の横顔を見ながら、そう思いました。
でも、私の体に置かれた彼の左手の指輪。
彼のカッターシャツの甘い柔軟剤の匂い。
彼が同僚と話していたお子さんのこと。
そういうものを目に、耳にしては、これ以上を求めてはいけないいけないと自分に言い聞かせていました。
半ばやつれたようになって、酷い肌荒れになったこともあります。
そして、私をこんな風にしながら関係を続ける彼のことを恨んだりもしました。泣きながら「私を振ってください」とすがったこともあります。
それでも、彼は「ごめん」と言うだけ。
「好きなんだ」と抱きしめるだけ。
心身ともに疲れ切った頃、とある理由から私は退職を決めました。
そして彼に「もう関係は続けられない」ときっぱり告げました。
心がちぎれそうでした。
「…最後に1回だけ抱きしめさせて」と言った彼の切ない表情が今も忘れられません。
しばらくは彼から連絡が着ていて、私も返信していましたが、顔を合わせなくなったことで随分気持ちが薄れ、今はまったく連絡を取らなくなりました。
たくさんの辛い思いをし、彼のご家族にも迷惑をかけましたが、私の中では今も忘れられない思い出です。
身勝手ですが、彼の中で私が最後の不倫相手であることを祈っています。